もんぜんじゃくら〈2〉

 席に荷物を置き、コーヒーを買う。知らない人のために言っておくがマックのコーヒーは安くて美味い。1番のおすすめは朝マックハッシュドポテトだが、朝に弱い俺は中々ありつけない。恒常メニュー化が待ち遠しいが世間での人気はさほど無さそうなので、社長が無類のハッシュドポテト好きである事を願うしかない。

 「最後に会ったのは相当前だが、お前は変わらなぇな。」

 「そうか?まぁ確かに体重は変化ないけど。」

 席に戻って早々失礼なやつだ。変わらないという言葉は悪く言えば成長がないとイコールだ。同窓会や昔の知り合いに会うと言われることがあるが、言う側はもっとこの言葉に気を使ったほうがいい。

 「そういう横杉も相変わらず無駄にでかいな。親御さんの身長そんな高くないのに、なんでお前だけ背が高いんだ?」

 「そんなの俺が知ってると思うか?体は突然変異なんだろ。この図体に似合う運動神経があればっていつも思ってるさ。それがあればこんな崖っぷちの漫画家なんてやらねぇのによ。」

 そうなのだ。何を隠そうこいつは漫画家である。それも俺に劣らないほど売れない漫画家だ。絵は悪くない、話も悪くないが特別面白くもない。友情も努力も勝利だって描かれているはずなのに、どうしてか他の作品と差が出てしまう。

 「そういや急に話があるだなんてどうしたんだ?新作のネタでも思いついたか?」

 「ネタが思いついてりゃお前なんぞに話さず、俺一人で独占してるわ。そんないい話じゃねぇよ。打ち切られたんだ、俺の漫画。新人の作品のほうが読者アンケートがいいのでってな。」

 「確かにそれはきついな。でも打ち切りなんて俺たち何度もくらってるだろ。そこまで凹むか?」

 「そりゃお前、俺がもっと若けりゃ何とも思わないさ。けどもう俺も30半ばだ。このまま鳴かず飛ばずだったら、まともに働いたことのねぇおっさんが世に放たれるんだぜ。考えただけでも寒気がするね。」

 横杉の吐いた言葉に一瞬ぎくりとした。特に何かを手にしたわけでもないのに時間だけが過ぎていく。夕暮れ時に日が沈むのを恐れるような、8月31日の後に9月1日を迎えるような、そんな確実に来る終わりを俺たちは恐れている。きっと普通に働いていればこんな恐怖はないのだろう。いや、昨今の日本で未来を不安に思わないことなど無いのかもしれない。それでも毎日何かしらの仕事を任され、給料を受け取る理由と権利があるのは時々うらやましくなる。俺たちは仕事を任されない、その能力がないゆえに。俺たちは給料を受け取る理由と権利がない、仕事をこなしてないゆえに。

 書くしか、描くしかないのだ。たとえ先が見えずとも。